コラム:Quantinuum、エラーフリーへの道を切り開く

日付:2022-08-06 提供:Quantum Computing Report 翻訳:Hideki Hayashi

By Andre Saraiva, Diraq


量子コンピュータの最も驚異的なアプリケーションは、量子ビットに対して数兆回以上の演算を必要とします。しかし、最高のエンジニアリングと最高のエラー緩和戦略をもってしても、コンピュータの量子的な「良さ」がすべて失われる前に、1,000回程度の演算しかできません。この難問に対する唯一の解決策は、いくつかの量子ビットを犠牲にして、量子情報を保護するために協力し合う1つの大きなクラスターを形成することです。そしてこの集合体は、論理量子ビットと呼ばれています。


優れた論理量子ビットを作り、制御することは簡単ではありません。制御が不十分な量子ビットは、お互いを守るどころか、逆に作用してしまうことも。さらに、潜在的なエラーを特定し、それを修正するためには、他の量子ビットを生かしたまま、ある量子ビットを繰り返し測定できることが必要になります。


Quantinuumは、既にしばらく誤り訂正に取り組んできました。同社の量子プロセッサーは、十分な大きさと精度を備えており、こうした技術のいくつかを価値的に試す頃ができるようになりました。昨年、彼らはリアルタイムでエラーを追跡する機能を備えた「単一論理量子ビット」を作りました。そして今回、この論理的量子ビットの2個をもつれさせることに成功したのです。


この進歩の価値を正しく理解するには、誤り訂正の課題を知っておく必要があります。Quantinuumはブログで、今回の調査の主な成果を次のように説明しています。


1. リアルタイム誤り訂正を用いたフォールトトレラントな方法で、2つの論理量子ビット間のエンタングルゲートを実現した初のデモを実施


2. 対応する物理回路よりも高い忠実度を持つ論理もつれ回路を初実証


専門家以外の合意 -

ここには、解き明かすべきことがたくさんあります。キーワードは「フォールトトレランス」。量子誤り訂正は、誤りを完全に取り除くのではなく、誤りが発生する確率を下げるだけです。「コード」と呼ばれる誤り訂正の仕組みは、ユーザーが望むだけ誤り率を小さくすることができるかもしれないし、できないかもしれません。より多くの量子ビットを犠牲にすることで、系統的に誤り率を下げることができるコードは、フォールトトレラントと呼ばれます。


Quantinuumが最初に達成したのは、2つの物理量子ビット(または論理量子ビット)グループの間でエンタングルメントを行うことでした。そして、このグループを大きくすることで、論理量子ビットを保護するための規則に従いながら、それを実現したのです。


重要な点を。個々の物理量子ビットに対する演算が、グループ全体の協調的なダイナミクスによって、個々の量子ビットよりも良好な性能を示したことです。これは、誤り訂正の鍵となる要素、すなわち論理量子ビットに量子情報を冗長に符号化して誤りを抑制することが確認されたということです。


さらに、20量子ビットのH1-1と12量子ビットのH1-2という2種類の量子プロセッサーを用いて、2種類の誤り訂正の方法をテストするところまで行いました。テストしたのは、5量子ビットコードとカラーコード。5量子ビット符号は、物理的な量子ビットの数としては最も経済的な符号の一つですが、カラー符号の方が性能が優れていました。これは、カラーコードの方が誤り訂正の1サイクルあたりの演算量が少ないため、コスト効率が良くなり、最終的にノイズの多い量子ビットに対して競争力を持つようになったためです。


これは氷山の一角です。H1シリーズのプロセッサは、CMOSチップの電極でできた再構成可能なトラップ場にイオンを浮かべることで、量子ビットをシャッフルすることができるのです。この特徴を利用して、量子ビットの接続を変更し、より高度なコードをテストできます。さらに、リアルタイムでの量子ビットの計測と決定が可能なため、近い将来、興味深いフィードフォワードの応用が可能になるはずです。


この結果は、量子プロセッサの卓越した品質だけでなく、量子演算をサポートする古典演算の大幅な進展に基づくものです。量子・古典プロセッサを緊密に統合し、高速でH1プロセッサーの特性に最適化したソフトウェアを開発することで、誤り訂正の科学に大きな進展がもたらされるでしょう。


What is next?


誤り訂正が直面する主な課題の1つは、量子的な側面ではなく、それに付随する古典的な処理にあります。Quantinuumは、再構成可能なトラップにより、量子ビットのリアルタイム測定、緊密に統合された古典処理に基づく高速な意思決定、数サイクルにわたる能動的な誤り訂正を可能にし、その方針で素晴らしい進歩を遂げました。しかし、これらの要素がすべて一緒になったとき、個々の量子ビットに対する集合論理量子ビットの優位性は妨げられます。エラーが発生した場所を解釈し、修正する方法を決定するのに数ミリ秒の貴重な時間が必要で、これは量子ビットがそのコヒーレンスをある程度失うのに十分な時間だからです。


もうひとつの重要な課題は、量子ビット間の柔軟な接続性を維持しながら、量子ビットの数を十分に増やして大規模な量子計算を行うことでしょう。この場合、プロセッサをある程度の数の量子ビットを持つセルに分割し、隣接するセルと相互作用させる必要があり、量子ビットの接続範囲が事実上制限されることになるからです。


この研究についての詳細は、Quantinuumのサイトのブログ記事、およびarXivに掲載された技術論文のプレプリント覧ください。



Dr. Saraiva:著者

シリコンスピン量子計算やその他の量子技術における問題の理論的解決に10年以上取り組んでいます。現在は、CMOS量子ドットをベースにしたスケーラブルな量子プロセッサを開発するオーストラリアの新興企業Diraqの固体理論部門長を務めています。